出口治明さんの著書「哲学と宗教全史」を読み終わりました。とても刺激を受けました。知的好奇心も満たされました。今後の勉強のためにも、読書メモを残します。
どのような書籍か
本書のスタートは人間が言葉を獲得した時代です。20万年前にさかのぼります。人間は、言葉を獲得し、定住化し、ドメスティケーションを経て、宗教という概念を生み出しました。世界宗教としてゾロアスター教を最初のテーマにあげています。一方で、鉄製の農機具の登場と温暖化から、農作物の生産力が向上したことをきっかけに、有産階級が生まれ知識人が登場しました。これが哲学のスタートです。その後、哲学と宗教が互いに関連しながら進歩し、大陸の東と西を行き来し、ダイナミックに話が進みます。
このあっちに行ったりこっちに行ったりの繋がりを本書は地図のように整理しています。巻頭・巻末には肖像画と一言メッセージがついたチャートがあり、迷子にならずに読み進めることができます。長くて複雑な歴史を、わずか400頁強にまとめ切ったことが本書のすごい点です。なお、バックグラウンドとなる参考書籍は数百冊に及ぶ書籍が列挙されており、圧巻です。
本書を読もうとしたきっかけ
これまでを振り返ると、「哲学」は簡単な解説本を数冊読んだことがあります。今もちょっとずつソフィーの世界を読んでいます。「宗教」は、普段の生活での関わりもありますし、小説調の本(例えば、旧約聖書を知っていますか)を読んだことがあります。両方とも体系だった知識を持つほど勉強してはいません。
ただ最近急激に興味をかきたてる対象になりました。「宗教」でいうと、神社仏閣巡りは普段観光の一貫でしますし、ビジネスの世界ではマインドフルネスやコンパッションといった「宗教」の考え方(もしくは心理学かもしれませんが、その源流はやはり宗教や哲学でしょう)をベースにした取り組みが流行っています。こういった流行りものは好きですが、その土台をちゃんと知っておきたいと常々思っています。「哲学」は、人間の思考のみで(自然科学より先に)世界に道標を作った人たちがどんな人だったのか。どういう考え方の営みが今の世の中を作っているのか、とても興味がありました。
今の世は何からできているのか
今の世の仕組みの多くは、宗教としての成果、哲学としての成果の結実なのだなと本書を読み終わって感じました。いまある科学技術や考え方や行動原理は葉や花にあたる部分であり、過去ずっと営まれてきた哲学や宗教が枝や幹を作ってくれたんだと気づきました。
本文中でも解説がありますが、これらの歴史が幹になるために統合と分離を繰り返して進化しているというのが面白かったです。よく名前を聞く偉人は、「統合」をした人が多いように感じましたね。本書は通史として、哲学と宗教を見ているため、関連性が良く分かるところが楽しいです。トマス・アクィナスが、
哲学は神学の端女である
と神学の真理と、哲学の真理に上下関係を付けてみたり。フリードリヒ・ニーチェが、
神は死んだ
と言い切ってみたり。それぞれがどう進歩していったのかがよく理解することができます。
哲学と宗教以外は?
本書の中心は、タイトル通り、哲学と宗教です。ただし、前述した幹となる部分はこの2つ以外にもあるんだろうな。
人間の問いに答えてきたのは、昔は宗教がほとんどでした。それから哲学が台頭してきて、やがて自然科学が生まれ、生物としての人間についてほとんどすべてを説明できるようになりました。それでもまだ自然科学は万能ではなさそうです。哲学や宗教は、今、そのよう地平に到達しています。
P.17 はじめに|なぜ、今、哲学と宗教なのか?
「はじめに」では自然科学があげられていました。本書で深く踏み込んでいないため、自然科学が、宗教や哲学とともに歩んできた歴史も通史で知りたくなりました(小説だとダン・ブラウンのテーマですね)。似た観点ですと、やや宗教よりで、芸術分野もどう影響してきたかは気になります。あとは数学も幹の部分を担ったのでしょうか。少し学問寄りに考えてしまいましたが、他にも全く関係ないところに幹となる知恵があるのかもしれません。
次に何を勉強しようかな
本書は登場人物全員について出口さんのおすすめの参考文献が記載されています。本書をガイドとして、自分の琴線に触れた人物をさらに知ることもできます。自分はデカルトの方法序説から広げてみたいな、と思っています。
加えて、日本人の登場人物が少ないため、日本人の哲学家についても著書を読んでみたいです。誰がおすすめだろう。鈴木大拙とか?もうちょっと調べてみようかな。
コメント